誰かぼくにファミコン買ってよ
竜門勇気


西へ向かう電車に乗ると、すでにひとっこ一人いない電車に乗って風邪をひいてめんどくさい。
羽をすっかり伸ばしてしまうと残りは二人になった。
まつげの手入れに余念のないつり革の住人がソフトシンセサイザーのバイナリを読み上げている。
やがて終わりいく世界の光景をメモ帳の中で脚色しているのは世界で唯一の弁護士。
16で既に一人ぼっちで孤独を感じないために必要な書類の書き方を心得ているような男。引っ掻き回す魔術師。

爪の中に引っかかったロボットのかけらを金色の八重歯ではじき出しながら旅には終わりがないということをクドクド喋っては、腐った得体のしれない果実をかじる。
ポットの中まで検閲を受けてルーシー一家は腹を立てた。明日自分たちにどんな不幸が起きるか知っているように予言めいた脅迫文をしたためている。

西へ着いてしまうと電車は空っぽのミルワームになって、陶器の輝きに淋しげな僕らの顔を眺めるだけのつまらないマジックテープを演じている。
くしゃみが止まらない。免罪と遊ぼう。
ハレルヤ!ハレルヤ!合唱団とすれ違う。
奴らの自尊心だけが青く澄んで晴れている。
新しくて無意味な宗教に守ってもらおう。

ウェットティッシュで鼻をかんでいたつもりでいた。それがたっぷりアルコールを含んでいて、僕とどんな関係にある存在かなんてきにせず。
鼻をかむたび、ぼくは世界の開拓者になったつもりで世界中のたっぷりアルコールを含んだ鼻紙もどきを手に入れるつもりになる。
観覧車はまわる。観覧車以外も。
目の前を飛び回る星たちは、せわしなく目を撫で回す。
一時間も歩くとそいつらが頭のてっぺんの糸を引っ張りまわして立っていられず、青いアスファルトの灰色の手すりにもたれて黄色い出来損ないと戦うハメになった。
なんども警察官はやってきて、去っていく。
僕が奴らを倒すのを待ってるんだろう。負けながら朝を待つ。



散文(批評随筆小説等) 誰かぼくにファミコン買ってよ Copyright 竜門勇気 2011-04-06 05:09:01
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