メスライオンのやわらかな首毛
ホロウ・シカエルボク





神の火をひと息で握りつぶして
おれは幾千の真夜中の中間で
地上で最高の
太陽を目にする
脊髄を流れる
液が沸騰して
まるで電熱コンロみたいさ
おれは古臭い発熱の権化だ
からだの中に地上で最高の太陽を飼っている
神の火をねじ伏せる飼育員だ
そしてメスライオンをファックする
首の根っこにかじりついて
おとなしくさせながらさ
メスライオンは歓喜の歌を歌い始める、その
チェインソーのモーターみたいな
うねりの混じる咆哮で
ハウリングだ、とおれは思う
ハウリングがいのちの歌をうたっているのだ、ええ、このやろう
おれの骨盤のうごきでは
ロールオーバーベートーベン
することは出来ないというのか!
おれも咆哮する、オスの咆哮は、ええ
オスの咆哮はいつでも哀しすぎるんだぜ、おまえにそのことが判るかい
漏らすための水しか持ち合わせていないおまえに
こぼさずにたたえる水しか持ち合せがないこのオスのことが
おれは歓喜の歌などうたうことはない
あとで喰らい尽くされる肉体のことを知っているからさ!
交わらない子宮におれは精子を放つ
交わらない、交わらない子宮
二度と再現されないおれのいのち
てめえでやるより始末が悪い
ベッドの向こうの砂漠へメスライオンは逃げてゆく
彼女は
おれのことを忘れることがないだろう
そこにあるものが愛でなくたってかまわない
どのみち彼女はおれを
精一杯受け止めてくれたのだ
おれは砂漠に思いを馳せながら後始末をした
漏らすための水と
こぼさないための水のすれちがい
ああ
生命はこうしてすれちがってゆく
たかぶりも
ぬくもりも
すべてその時だけのよろこび
知れば知るほど
孤独の中に落ちてゆく
あればあるほど愛は欲しくなってしまう
燃えのこるガソリンの鼻をつく臭い
すべて燃えてしまうのに足りなかったものはなに
ひとりになったら咆哮してはいけない
ひとりになったら咆哮してはいけないぜ
夜の暗闇に消えてゆくおのれの声の反響を
なにもかもなにもかも耳にしてしまうから
おれを砂漠に引きずって行ってくれ
おれを砂漠に引きずって行ってくれよ
こんど産まれてくるときは
熱と光と埃のなかで土にまみれたいんだ
行ってしまったものほどいとおしいと感じる、どうしてなんだ
からだの中までおれたちは深く知り合ったのに!
太陽がどこかへ消えてしまった
太陽はどこかで燃え尽きてしまった
おれは神の火を握りつぶしたのではなく
それに潜り込まれただけだったのだ
おれはふざけた野性のダンスを踊らされただけだったのか
寝床に横たわると骨になったような気がした、オーン
おれは一度だけ鳴声を上げた、そうすれば





あの砂漠に
駆けていけるような気がした

それだけだ






自由詩 メスライオンのやわらかな首毛 Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-04-05 23:02:46
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