傍観者
吉岡ペペロ
二千何百年かまえ
私はあなたのやはり傍観者だった
それは生まれかわりの思想ではなかった
いのちに宿る追憶そのものだった
珈琲か口臭かうんこの匂いか分からなかった
その聖人は聖人だと思えばお香の匂いであった
珈琲を飲み終わったばかりだと思えば珈琲
歯槽膿漏だと思えば口臭
紙がなかったのかと思えばうんこ
私は彼を聖人だと思うことにした
そしてここは大衆浴場だったのである
背中に紋紋のある朋輩はおろか子供たちでさえ
その聖人をまっすぐとは見れないようだった
私だけが聖人を凝視していたのである
三度めの水風呂で一緒になりその横で
私は滝行するひとりの傍観者となっていた
聖人は上を見るでもなく前を見るでもなく虚を見るでもなく
まったきに放たれた始源のひかりの如く
そこが宇宙の中心であるにちがいなかった
二千何百年かまえ
私はあなたのやはり傍観者だった
それは生まれかわりの思想ではなかった
いのちに宿る追憶そのものだった