傍観者
吉岡ペペロ

二千何百年かまえ

私はあなたのやはり傍観者だった

それは生まれかわりの思想ではなかった

いのちに宿る追憶そのものだった


珈琲か口臭かうんこの匂いか分からなかった

その聖人は聖人だと思えばお香の匂いであった

珈琲を飲み終わったばかりだと思えば珈琲

歯槽膿漏だと思えば口臭

紙がなかったのかと思えばうんこ

私は彼を聖人だと思うことにした

そしてここは大衆浴場だったのである

背中に紋紋のある朋輩はおろか子供たちでさえ

その聖人をまっすぐとは見れないようだった

私だけが聖人を凝視していたのである

三度めの水風呂で一緒になりその横で

私は滝行するひとりの傍観者となっていた

聖人は上を見るでもなく前を見るでもなく虚を見るでもなく

まったきに放たれた始源のひかりの如く

そこが宇宙の中心であるにちがいなかった


二千何百年かまえ

私はあなたのやはり傍観者だった

それは生まれかわりの思想ではなかった

いのちに宿る追憶そのものだった





自由詩 傍観者 Copyright 吉岡ペペロ 2011-04-03 23:14:04
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