平凡 / ****'04
小野 一縷


ぼくが平凡に飽いて 随分と時が経つ

青空は決して 
何処までも 広がってはいない
何処にでも 広がってはいない
その空の下に 血が流れる戦地に於いて
青は益々 その純度を輝かせる

冷たい石の国
地を這う白煙の斑蛇が
血の涎を垂らす野獣が引く戦車を 
運命られた軌跡で 追い従う

爆音

木霊 耳鳴り 眩暈 嗚咽 吐気 
白金の針の尖端の塵になって散れ
ぼくに戦友はいない
皆 敵だ
黒い瞳の義眼を外して
青い瞳の義眼を唾で濡らして 左の空洞に入れる

戦場に横たわる黒い大河が泣いている
濁った赤で汚されて
弾丸約五発 幸運であれば一発で 一人死ぬ
薬莢は光る棺になって 暗い河底の泥に埋没する

霜が朱黒土の道を罅走する
鋭利に結晶する雨露に接吻して唇を切る
流れる血を手の平で掬って 顔を洗う

風に靡く通信塔の撓り 軋み 唸り 頭痛
ずっと低い所で 千の風車が回る
その音は格子の嵌まった 病棟からの叫びのように
忌々しい 

痛風の奴等から死者を選ぶ
呪われた古の守護天使三匹 
あいつ等は実際 再就職した死神だ

灰色の熱が 国土を占める 冬の進軍

ああ 故郷で
裏庭の白く眩しいブランコが
葡萄の赤い蔓に絡まれ 錆び付き
藍の粒を次々と孕ませ
風に揺れる自由を縛られて

ああ 遠い国で 
ずっと遠い砂の海面を揺らす陽炎は
七色の有害な音階の砂の軋み

焦げた多額の紙幣が 黒い蝶の一団となって
世界中を旅する 罌粟の鱗粉を撒き散らして

今日稼いだ日雇い銭の中にも 黒い蝶
その紙幣で煙草を1カートン買った 

平凡な紙幣の平凡な遣い方に 
ぼくは狂笑を禁じえない

こうして退屈を持て余してる
平凡な奴ほど 言い訳が得意だ




自由詩 平凡 / ****'04 Copyright 小野 一縷 2011-04-03 17:10:07
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