春雨 / ****'99
小野 一縷


遅すぎた雪は
後から追ってきた 雨に溶かされて
もう 降らない
でも 雪は
きみが大切に育てた
色とりどりの花たちを 皆殺しにしていった

夕時雨に
垂れた 白い涙 啜って
重く沈む夜を いくつ
待ち侘びたことだろう
昨夜より 深い今夜であるように


今夜
きみが好きな 雨の夜
また 甘く 甘く 沈んでゆくんだね
夜の黒の重なり 
その隙間に 滑り込むように 

時間は 永く
酔ったまま
桜咲く 墓地へ
誘われて 暗い車内
雨粒は硝子の上 寄り添い合って

平面の月を手の平に
散らばして
花びらのように
一息で吸い込んだ

この時季の日中 人が多くなるから
嫌いだ
でも 桜の花は
嫌いじゃないと思っていた
騒がしさが
目について この時季が嫌なだけ

桜より
きみは 白の芥子の花が好き
ぼくは 緑の麻の花が好き

でも決めたんだ
ぼくの大切な花たちを
この手で殺してゆくことを

残念だなんて言わないで

いつか
ぼくときみの出会いに 思い耽ることだろう
二度と嗅ぐことのない 花たちの 芳しい匂いを
偶然 鼻腔の奥に見つけた時

その時は 真っ先に電話するよ
その時 ぼくらは微笑んでいるから

だから 心配しないで

今夜に
沈んでゆこう





自由詩 春雨 / ****'99 Copyright 小野 一縷 2011-04-03 16:17:05
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