ひとつ 水彩
木立 悟
三十五人のオーボエ奏者が
空へ空へ落ちながら
午後に銀を描き足してゆく
夜と雨
夜にうずくまり
入口の光を聴く
側道に 崖に
蜘蛛の巣に
書かれた名前
忘れてもいい
夜に夜があり
裸のまますぎる
痛みの標 指の標
触れては砕け
砕け 砕け
鏡のなかの ふかみどりと灰
ひとつ ふたつ
髪を梳く視線
ひとつ ふたつ
濃くなってゆく
指は髪から動かずに
まぶたの重さを聴いている
空 水の糸
手のひらのむらさき
鏡はあふれ
午後の数を増し
目くばせに映る火
すぎる すぎる灰
爪の傷が残す水の輪
鉱と金属のパレットから離れ
指はふたたび
鏡のなかの髪に触れる