不幸な自粛
吉岡ペペロ

22年まえも自粛が日本を覆っていた

コマーシャルが口パクになってNHKは夜中も天皇の下血の量とか血圧とかを画面に表示しつづけていた

そこにはクラシックがながれていた

えんえん、えんえん、えんえん、

あのとき天皇のからだのなかのぼくらはミクロの決死隊のようだった

そしていまぼくらはこの国をひとつの船のように思っている

まだ沈んでいない船のなかのラウンジで酒を飲みプールで泳ぎカラオケボックスで歌いあらゆる料理を選び海水が入ってこない船室で抱きあう

えんえん、えんえん、えんえん、

逃げ出すことのほうが正解であるはずなのに根源的なことを現実のなかで試されている

ひとは不幸に対しては慣れやすく、幸福に対しては慣れることがない、

この言葉はトルストイの小説の冒頭の一節であったような気がするのだが定かではない

ぼくらが自粛好きなのを思うときこの言葉が浮かぶ

ぼくらはいまきっと幸福ではないのだろう

だからこんな状態でもACやテレビの司会者たちは買いだめをやめようとかつまらないことを言っているのだろう

えんえん、えんえん、えんえん、

悔しいことだがぼくらはいま不幸に慣れようとしている



自由詩 不幸な自粛 Copyright 吉岡ペペロ 2011-04-02 07:58:45
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