悲しみ
吉岡ペペロ
禿頭にパンチパーマが生えてきたような
夜の街路樹に仄見える青葉は外灯にてらされて
現実世界にうまれた幽霊のようだった
コンビニは看板を消していて
さっき接待に使った天然ふぐ屋もリーマンショックいらいの閑散らしい
十二万支払いお客様と社員だけタクシーに乗せて
もう30分ばかり知っている駅までを歩いていた
ずっと揺れていた悲しみが探しても見つからない
酔いだ
みんな死ぬんだ
二万八千人の死に黙祷はおかしくない
なぜだかあたりまえだ
毎日どこかで二万八千人くらい死んでいるんじゃないのか
それに黙祷しないのはなぜか
それもなぜだかあたりまえだ
さっきタバコが販売制限されているのを知った
町工場から断続的な回転音
マシンの主軸が金属を加工する音だ
もっとほろ酔いたい
悲しみとは落差のことなのか
ふつうであること
ふつうでないという落差
ふつうであるという落差
だれも傷つけたくない
悲しみが酔いで拡散している
悲しみから遠ざかりその先端で
ふらふらとただ町を見つめながら歩いていた