忘れる
草野春心

  婆さんが呆けた顔で笑っている
  海のものとも山のものとも知れぬ婆さん



  老いた記憶をさぐっていけば
  そこしれぬものが埋まっているはずなのに
  婆さんは呆けた顔で笑っている



  やれやれ、
  ひとはばかだ
  だから強い



  歯をみがいているとき
  なにをしているのかわからなくなるように
  まだ一本目の
  煙草を吸い終えていないとき
  ばかみたいに二本目に火をつけるように



  痛みを
  忘れられたらいい



  かなしくてもいい
  なんども
  なんども心でくりかえして



  痛みが
  血肉に変わればいい
  風を
  光を
  しあわせを
  だれも気にとめないのと同じように






自由詩 忘れる Copyright 草野春心 2011-03-31 10:41:27
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