Electric Last Moment(エレクトリック・ラスト・モーメント)
木屋 亞万

車が燃えている
クラクションを響かせて
さよならの時だ

出棺のように
天国へ召されていく
車に墓はないけれど
廃車になって
プレスされ
溶かされるか
埋め立てられるか

家族のように時を過ごしたが
うちの墓に入れるわけにはいかない
それはペットだって同じだ
ペットの葬式はしてやれるが
別の墓を立てるのが関の山

車の葬式をしたかったのに
拾う骨は残らずに
金属の焦げた骨組みが
がっしり燃えずに残ったままだ

光り輝く流れ星のように
溶けてなくなることもできずに
無念だったろう

仕事を終えた星のように
爆発できなくて
悔しいだろう

車は子どもを生めないと
知ってはいるけど
それならば
せめて何か形見が欲しい

犬なら首輪があるけれど
そう思って
ポケットを探ると
車のキーがあった

何だか別れたばかりの
若いカップルみたいに
その鍵を握り締めて
目を閉じた

炎に揺れる空気のように
まぶたの裏も揺れている
泣いてはいないけれど
泣きそうにはなっている

これからは水と蛋白質の時代
電気と金属と油の時代は終わる
さよならの時なのだ

金属の鍵を形見にやわらかな
日々を進んでいく時なのだ


自由詩 Electric Last Moment(エレクトリック・ラスト・モーメント) Copyright 木屋 亞万 2011-03-30 00:31:22
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