春のせせらぎ
高梁サトル

誰かの誕生歌と
鎮魂歌が同時に流れる車中で
渇いた舌が沈黙で痺れる

硝子を打つ冷たい雨つぶ
凍結に感染したわたしの横顔は
雲の隙間から漏れる薄明かりの中で
蜻蛉のように
透明にしろくかがやいていた

窓の外は春の気配に満ちていて
何処も彼処も
はなやごうとしている
けれど
あの子の微笑みから翳は消えない

(はなが咲くことだけに幽閉されている、うたが歌われることだけに、あの子もわたしも)

言葉だけを捧げる日々は
儀式のようだと
言った
その同じ唇で
形式ばった手順と
仕草のすべてを捧げると誓う

(生きていくということは、少しずつ、少しずつさみしさをつみかさねていくことだから)

積雪のように

銀色の雪景色が恋しいのは
眼に映るすべてが
しろくかがやいていたから
いつか描いた夢路には
ひとつの足跡もなく美しかった

誰にも止めることができない
春は
せせらぎとなって潤すだろう
あの子の渇いた素足も
わたしのそれも



自由詩 春のせせらぎ Copyright 高梁サトル 2011-03-29 07:15:11
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