眠れない夜、止まない雨、励まさない詩
木屋 亞万
明けない夜はないのだという言葉は
果てしなく長い夜を過ごしているときには
何の役に立たないのだということを
知っている人はあまりいない
と、憂いている人は少なくない
もしも眠れないまま
何もできないまま
ただ天井を見つめたり
身体をもぞもぞさせたりするしかないとしたら
そのとき
終わらない夜はないのだという言葉は
夜の次は朝だという単純な意味を帯びるだけ
遠い終焉に絶望している人間に
いつかは辿り着けるよと励ます
無責任さ
その
終りの見えない距離も
繰り返し訪れる苦労も
想像できずに
頑張れば何とかなるのだと鼓舞する
適当さ
止まない雨がないことくらい知っているが
雨が止むまでここで
じっとしているわけにはいかない
明けない夜がないこともわかっているが
眠れぬ夜を過ごしても朝が来たら
人間たちは大々的に活動を始めるではないか
「明けない夜と戦ったのだから、明けたばかりの朝くらい、ゆっくり眠っていると良い」
誰がそう言うだろう
だから僕が言う
今日は僕が言う
眠れぬ夜には
控えめに電気を灯し
言葉を除いた楽器演奏に耳を浸し
純度の高い音の結晶を心にまぶす
静かな夜に
時間に急かされず
耳を傾ける音楽は
心地よい跳ね方をするのだ
止まない雨には
ズボンの裾を折りたたみ
靴のゴム底を器用に使って
なるべく濡れないように歩いてゆく
傘のドームに包まれながら
雨が弾ける音を間近で聞くのは
案外悪くないものだ
安全圏で見る雨は
世界の密かな大合唱
止まない雨も
明けない夜も
付き合い方次第では
悪くないものだから
住めば都の心で持って
澄んだ心で生きていきたい
明けたての夜はとても美しくすがすがしいし
止みたての雨はとても眩しくきらきらしている
だから
今すぐ眠れとは
言わないけれど
おやすみなさい