美しい舟
はるな

目を閉じると
とても美しい一艘の舟があって
遠くまで来たことを知る

あなたを欲しがることと
あなたとの時間を欲することが
べつものであることも
もう知っている

舫われるべき岸辺にはあなたが立っていて
その美しい骨は舟のようだ
背中は海のようにすべらかに広く
悲しいものを見届けるために静か

時間がいつでも宝石のように繋がれるものなら
だれもこんなところには漕ぎ着かない
そのかわりに
舟がこんなに磨かれることもなかっただろう

遠くまできて知ることは
何かを欲することと
それを所有することが
まったくべつものであるということ

ちゃんと感じたい
すべてのことを
いくら波が穏やかでも
それがすべてだとは限らないのだ

一艘の舟で
どうやって陸を進もう?
舫われるべき岸辺もなく
たくましい足もなく
奪われる美しさもなく

手放すことと
奪われること
失うことが
それぞれべつものであることも
もう知っている

目を閉じると
とても美しい舟があって
でももうそれに乗ることはない

舟が
骨のようにわたしのものになったから
遠くまで来たことを知る



自由詩 美しい舟 Copyright はるな 2011-03-27 00:44:33
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