ソング ・ オブ ・ インディオ
nonya
ウマウアカの谷に
春が来たよ お嬢さん
ウマウアカの谷が
歌っているよ お嬢さん
聞きかじったフォルクローレが
頭の中でループする
空を突き刺す白い山脈の彼方から
響いてくる
ボンボの雷鳴
灰褐色の斜面で荷を運ぶリャマの
足元にじゃれつく
チャランゴの光
ジャガイモの紫色の花が咲く段々畑を
すり抜けていく
ケーナの風
ウマウアカの谷に
春が来たんだよ お嬢さん
ウマウアカの谷が
歌っているんだよ お嬢さん
人々の歌声が噴き上がる
アンデスの高い空に向かって
幾度の苦難を乗り越えた
歌声が空の青を目指して
立ち昇っていく
高く
高く
高い
妄想の吹き抜けから
真っ逆さまに落ちてきたばかりの
僕は
まだ
コンドルを頭上で旋回させたまま
誰もいない休憩所の片隅で
観葉植物をぼんやり眺めていた
どこかで
ポニーテールの経理課のチョリータが
いにしえのケチュア語で
僕の名前を呼んでいるような気がするが
もう少し呼ばせておこう
すらりと伸びた幹から
踊るように両腕を突き上げて
緑色と黄色のツートンカラーの
陽気な指先を広げながら
無機質なオフィスの窓辺で
歌い続ける観葉植物は
ソング・オブ・インディオ