女性性に関する一考察
石川敬大



 こわれてゆく街のなかで
 こわれてゆく耳になって
 ぼくは
 通りすぎてゆく乾いた硬い音をきいていた
 ビル風に
 靴とアスファルトの
 靴とデパート通路のリノリュームの
 靴と地下鉄へむかう長い階段の
 乾いて硬い音が遠ざかってゆくのをきいていた


 (いかなる観念の念にもあらず)


 垂直にぼくのおとこの脳天をつきぬけてゆく
 尖った音
 やや鈍重である音
 硬い床面にあたって砕ける打楽器


 ダンスダンスダンス!


 やわらかな属性の
 カラフルな属性の
 いざなう芳香の
 青信号になるのを待って渡る
 緑色がより濃くなる濠端の方へと横断歩道を急ぐ


 (抽象的でありながら具象である)


 こわれてゆく街のなかで
 こわれてもこわれても輝きを増す
 この
 乾いた硬い音の
 どこに母性があるのだろう
 どこに赤ん坊がかくれているのだろう
 と、ぼくはフシギにおもう


 おとこのまさぐる指先がみえない


 この
 乾いて硬い音は
 おんなの性を帯びている






自由詩 女性性に関する一考察 Copyright 石川敬大 2011-03-26 00:48:39
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