沈黙についてのメモ
葉月二兎

http://d.hatena.ne.jp/Ceremony01/20110320

―――それ(=詩人の言葉)は沈黙からやってきて、沈黙へと帰ってゆく(モーリス・ブランショ)

沈黙とは声なき声、言葉なき言葉、音階なき音階である。
言葉が沈黙を喰らい尽くすように、沈黙もまた言葉を胎内から食い尽くす。

彼の言葉にある「絶句が、言葉をゆっくりと焼き尽くしていく。開けるのは、だだっぴろい空間。」とは食いつくされた言葉の後の静寂、残響に響く静寂、あるいは、ディラックの海に拓けた眼差しの向けられた場所である。

虚無の海、それとも沈黙(沈黙となった言葉)、だがそれを見つめるのもこの眼差しなのだ。

(語りえぬ「沈黙」、それは語りえないものに対する言葉の内包された抵抗でもある。)

そうした言葉なき言葉の言葉による抵抗の中「眼差す」こと。「沈黙」そのものを、もしくは「シ」そのものを。

―――声はみな石と化してしまった、
     埋められた空の沈黙よ       (サルヴァトーレ・クァジーモド)

あらゆる「問い」の余白を通り過ぎる風のように、「眼差し」こそがあらゆるイメージと沈黙とを通り過ぎてゆく。

―――眺められたものの非現実性が
     視線に現実性を与える       (オクタビオ・パス)

私にできるのは目を瞑ることではなく、ただ「眼差す」こと。その光景を、イメージを、「シ」を、ただ否定するでも、語りえぬ得ぬこととして否定することでも(肯定することでも)なしに。


―――そこに生きているのはただ二つの点――彼の二つの目――
      そして沈黙                               (マリオ・ルーツィ)


―――《祈れ》と言う、《沈める町のために》…… (マリオ・ルーツィ)

祈りを向けること。そして、「眼差し」とはまた贈与でもある。
この私の眼、身体そのものを。そして主の、この身の血がまたあなたにも巡ることを祈るように、
私は沈黙をそのままに、「眼差し」を手向ける。


―――あなたにあげよう
     灰燼と天空のまま 所有していたものを、
     ことばにみちたこの脇腹を
     沈黙のこの脇腹を               (ガブリエラ・ミストラル)


散文(批評随筆小説等) 沈黙についてのメモ Copyright 葉月二兎 2011-03-24 23:27:31
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