くそやろうたちへ
とんぼ

やっぱり寂しいんだようと言って最後の最後でわたしが泣くと
うわーーこいつ泣いたよきめえ
といつもの調子でみんな笑った
それからいつもみたいにじゃあねと言って
それぞれ走り出したばかりの市バスに乗り込んだ

1人でまだ1日が始まったばかりの部屋に帰ってようやく
駅前で涙をぬぐったマフラーに
つけまつげとファンデーーションが付いていたことに気付いた
それを取りながらわたしは
泣かない人たちが
最後まで見せなかった涙のことを思う
彼らの部屋のフローリングに落ちて、そのうち乾いて薄い染みになる
数滴の熱いもののことを思う
最後に触れた彼らの手も熱かった

ここは京都だ
わたしたちはみんなどこかへ帰る約束をしていた
4年間だけここへ来て、またそれぞれのところへ帰っていくのだ
毎日笑って過ごしていたけど、
一緒に生きる未来がないことをちゃんと知っていた
決められた時間が数をかぞえるみたいに正確に減っていくのをずっと見ていた
今日という決められた日が
一生忘れられないものになることもずっと分かっていた
終わりが道の先に見えてきた頃から
いつも通りお互いの悪口を言い合うみんなの
目だけが違うことにこっそり気付き合っていた
逃さないようにこぼさないように
お互いを見てた
忘れないでね
こんなに楽しく笑い合えた日々があること
なんて 言いたいけど恥ずかしくて言えないまま別れた
さよならもまたねもなんか違うから
じゃあね、って言って

日本はどうして縦長いのか
まるい島なら環状線を走らせて
すぐに会いに行けるのに
遠いよ鹿児島
遠いよ北海道
四国も和歌山も新幹線通ってないんだよ
わたし東京に行くよ
誰もいないよ
絶対さみしいよ
1人になっちゃうよ


やっぱり寂しいんだようと最後の最後でわたしは泣いた
やっぱり寂しいんだよう
大学が、ほんとに楽しかったんだよう
あんたたちのおかげで
ほんとに楽しくて、どこにも行きたくないんだよう

うわーーこいつ泣いたよきめえ
といつもの調子でみんな笑った
それからわたしの頭や肩をなでて
頑張ろうと言った


自由詩 くそやろうたちへ Copyright とんぼ 2011-03-24 02:43:56
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