雨のお散歩
はだいろ


雨がふっていたので、
街に人がいなかった。
もういなかった。

くもが波のようにうねり、
静かに雨が。
ぼくはあのひとと歩いた。
本屋さんのおもてにも青いビニールシート。
ときどきウィンドウがあかるく、
でももうだれもいなかった。

こうして並んで歩いてみると、
背のたかさがちょうどいいと、
ガラスに映るふたりを見ておもった。
ぼくは、
ぼくがこの命のうちで、
ほんとうに好きだったひとは、
あの日のあの人だけだったような気がする。
けれど、
もうどこか遠い街の、
その人もすでに外には出られなかったのだろう。

だれも、
怒ったりはしない。
だれも、
悲しんだりもしない。
もう終わりがきたのだ。
ただそれだけのこと。
静かに、
ひそやかな話をする。

ぼくとあのひとは、
からだを合わせることもせず、
ただ歩こう、とおもった。
しみじみとしたふれあいを感じた。
それは、
あたたかさとあたたかさがふれあうことで、
もっとあたたかくなること。

雨がふっていたので、
街に人がいなかった。
もういなかった。
ぼくらふたりだけ、へいきで歩いていった。







自由詩 雨のお散歩 Copyright はだいろ 2011-03-22 21:52:10
notebook Home