けもの森の囚人
木立 悟






水は降る 冬は降る
銀と灰と
誉れなき晶
午後は降る 午後は降る


右手で右手をしぼり
流れ出るのは同じ色
痛みに混じる
あたたかさ


ななめうしろ つややかな
何もないものを受けとめる
灰のなかの銀
鉛と白と 骨のうた


眠りに咲き 花に飛ぶ
指さす先の夜 遠さの遠さ
同じく異なる場所にくちづけ
数日遅れの星のつぼみ


波のかたちが音に重なり
差異の里は三つ子に巡る
手と手と手と手と
手に巡る


音の棘の冠が
曇を水へ水へと降らせ
るらるらと るらるらと
水たまりの羽かえしゆく


白へ白へ
むらさき みどり
平たく 平たく
抜き差すみどり


かたまりでないもののかたまりと
小さなものとの歩みから
こめかみの角 ひたいの角
遠すぎる稲妻の色の無さ


心が何も無い場所に
水がやって来るときの
小さな音と
まぶしさと


雨の鹿
雨の鹿
野の境まで
響くひとつ


とどくようでととどかない
そのまぼろしにいつまでも
とどかなくていいと言えないでいる
ふりではないふり ふりのためのふり 


朝のはじまりにじくじくと
流れやまぬ夜 流れやまぬ夜
星はさみ風はさむ指を振りきり
どこかへどこかへ どこかへと吹く


四歩しりぞき
雪に沈む灯
水辺の木の家
夜に灯る手


双つの想い
稲妻に手わたし
やがて降り立ち
けもの森となる


文字の檻が
蒼に倒れ 火に倒れ
うたうものは放たれる
激しく咲くものは放たれる































自由詩 けもの森の囚人 Copyright 木立 悟 2011-03-15 17:13:17
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