マーチ / ****年不明
小野 一縷
海原をぎらつかせ 燃えている タンカー
空をぬるぬると鈍らせる 採掘場は炎の上
砂漠の皮膜を滑るように撫でるのは
水汲みの女 干乾びず 永い時間をかけて染み込む
水滴の艶 丸み なんて美しい女性
ターバンの似合う 砂焼けした硬い肌
乾いた男の咽喉に滑るように迷い込む
美しい彼女には 逞しい男をあてがいたい
そうしたい そうしたいって いってるのに
打ってくる 内側から打ってくる マーチ
行進が止まないんだ
劣情を沸騰させる 胸騒ぎのマーチング
完璧に 作り上げた この妄想を食いに来る
無用心な悲惨を内包して
崩壊したソヴィエト
ああ お陰で怯えの対象が一つ減ったよ
これで体育の時間も安心だ
この両腕だけに言いつけられた 長袖のシャツよ さらば
そのお釣り
知り得ない恐怖が幾つに増えたか
眠っているプレジデントの耳たぶは
脂っこいに違いない
手足の無い子の呟きが その手足先の
滑らかさのように 滑っていくじゃないか
新型のタンクを見たかい
88mmなんて昔の話 虎や豹より力強い
主砲は120mm ブツには徹甲弾 ヤツには炸裂弾
アスファルトを波打たせる数億円の走行音
排気量のバカでかい鼓笛隊のドラムロール
近付いてくる
死刑執行の瞬間を想わせる 動悸
銃が欲しい 強くなりたいから
地雷が欲しい 守りたいから
行進 力強く進軍して来やがる 鼓動
もうゴミの分別なんて しなくていい
微分され尽くした光に
燃えないゴミなんて無い
煙が匂うか否か それだけだ
熱い陽差し
いたいけな空気の層が この街を臭くする
どうしてくれるんだ 顔の染み
どうやって守るんだ ローン残った一軒家
人混むショッピング・モールで鉄条網を20m買う
ロシアの漁民から星を抱いた銃を買う こんな平和な日々
退屈だから 弾頭をナイフで刻んで ホロー・ポイントをつけておく
一撃で隣人を殺れるように
でも ほら分裂症のキミ 人工衛星がキミを見張ってくれている
安心してカーテン開けて 眠りなよ
電子の波に揺らされていく 毎日
昨日までを続々と錆びさせる 赤黒い酸性の流れ
その速さ とめどなさ 胡散臭さが
この街を一層 臭くする
鼻をつまめば 息苦しい
ぼくらの 末期的な 心の症状