静かなまぼろし
ホロウ・シカエルボク
出来損ないの
光線の具合
淡い影を
歩道に残して
セルジュ・ゲンズブールの埃臭さが
鼻先でゆらゆらと眩む
暖かくなり始めた
世界の息吹はノーウェア・マンには五月蝿過ぎて
混沌の安穏のステップ、アンドゥトロァがだまくらかす、床で跳ねてるトゥシューズの、傷めた足から落ちた血飛沫
クラッキング、の新しいイントロを
何度も
思い出しながら
赤い軌跡を引くダンスをずっと眺めていた
日曜で
時間は
たくさんあった
哀しむことと
正直さが
理解し得ないなら
なにかに変換するしかない
溶け合うまで、踊って、踊って
それが穏やかな熱に様子を変えるまで
風が強い日には
さらわれたもののことを
いちいち
覚えてはいられない
薄いコートの襟を
きつく合わせることに必死になって
頭の中でバタフライしてた
アルペジオはいつしかなくなって
ギンズバーグが鼻を噛むような
音が
右脳の物陰からずっと聞こえていた
緑色のアザラシが天井で芸をし
コミックタッチの象が壁の中で笑い転げてる
音楽に合わせて
トゥシューズの軌跡を辿って
それが
つまり
「吠える」と
いうことなのだ
多足虫の足音はホンキー・トンク・マジックだ
天井裏で自滅的にスウィンギング・ロンドンしてる
それがロンドンでなければ素晴らしいのに
そいつが生まれたところの名前であったなら
よっぽど
ダンサーはダンスを忘れて
音楽を止めて
恥ずかしげに微笑みながら
こちらに向かって歩いてくる
たくさんの汗が彼女の
髪や頬を伝って
まるで美しいプラチナに
いま塗り変えているところみたいだ
フィルムは繰り返される
床には
点々と…