ユニコーン
三条麗菜

(君の化身に)

真珠色に輝いた
すらりと長い一本の角には
少女のまどろみを約束する香りが
まとわりついていました

背の高い草の
柔らかい茎の笛を鳴らし
少女は聖なる獣と遊びます
早春の木漏れ日が
褐色の肌を点々と輝かせ
脚はしなやかで
草原を大地を蹴って走ります

星たちと友達である獣は
夜になると少女に
星座の名前を教えます
それぞれの星座で
一番明るい星が一つの希望
だからこの世に希望は
無限にあるわけではなく
かといってたった一つでもないと
獣は優しく言うのでした

ある日少女は街へ行き
そのまま帰ってきませんでした

木々を縫う朝靄の中で
炎のように赤く染まった
角を振り立てて
獣は狂ったように走り出しました
雲を突き刺す摩天楼が
建ち並ぶ街へと

街では可能性という名の
複雑に入り組んだ文明の証が
光輝く道路を縦横に
駆け回っていました
あらゆる人々は
空洞になった目をして
その瞳の奥には長針と短針が
正確に時を刻んで踊っていました
その眩しい光景が生み出す
めまいをこらえて
獣はただ走り続けました

自分が少女に分け与えた
角の香りをかすかに
風に感じながら
狂った獣に怯える
人々の叫びを
耳に感じながら

摩天楼に囲まれた一室で
人間ならではの苦悩を
暗い背広の下にはりめぐらせた
一人の男に抱かれて
少女は初めて花が咲くように
心を開きました
あの濡れた真珠色が放つ
甘い香りが偽りであったと
少女は悟ったのでした

その時窓を破り
狂った獣が踊り込んできました
全身の白い毛を眩しく輝かせ
赤い光を放つ角をまっすぐに
少女の心臓に向けると
そのまま一気に突き進みました

君の名をつぶやくと
あの獣が今でも草原に立ち
激しい風に波打つ
白い毛が見えるようです
そしてもはや
真珠色ではなくなった
一本の角も

少女は生きていました


自由詩 ユニコーン Copyright 三条麗菜 2011-03-10 22:40:30
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