生きてない、死んでない。
うんち
世界の裏にいたとき
とりとめもなく群がる人間の雑踏の絵が、ありました。その絵の中に、自分の体はハッカ飴みたいに白く浮いているのではないかとふいと足下を見つめる女の人が、いました。女の人ははたからみてほとんどなにかがなにでもなく流れてゆく色のない水としてきれいに過ぎ去ります。透き通っていれば、灰の色をした中年と たくさんの子歩きの子女と 口をぽっかり開けた学生に気付かれることもないわ。青色の男が、見入って私のスカートの裾を追いかけている。男をかかとの下からどこへ流すか迷う。淋しさを静かに胸で篭りそれを響かせておくとあたたかくなる。
この水域まで来てしまえば馴染む動きさえなくともよく、押さえる力もいらなくて楽だ。
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部屋に戻ると、そんな形を成して生きていられる、今自分の座る不格好だが温かい木製の椅子を
愛しく贅沢そうに撫でる。けれどこの世に一つしか生産されなかったその椅子の事を可哀相にも思ってみた。
このしかくい部屋から母に電話を繋げてみてもよかった。けれどそうせずあっけらかんと眠ってしまう。
次の朝目を覚ます時に、私の身体とベッドと枕と布団だけが真実味もなく浮いていた。
そしてそこからはただくっきりとした白色の出窓からあどけない柴犬のぱちくりとした目が小さく見えていた。
本当は少し前に背のひょろりと高い緑色の男がおいていった空き瓶から日にちの立ち過ぎたうさんくさい匂いがしていたのに
それを自分の中に入れない。
《かな〜り過去作です》