コンラート・ローレンツ
salco
私の大好きなコンラート・ローレンツは
例えばこうだ
ある日、庭に引っ張り出した寝椅子に
ぼろを引っかぶって昼寝していると
狼がやって来て
コンラート・ローレンツを食ってしまうのさ
「おいッ、おいッ、やめてくれ」
「やめんかこら、やめなっさいッ!」
と喚き立てるけれども、もはや胃の中だ
そのうち消化液がぽたぽたと垂れてくる
博士は胸ポケットに尖ったペンもライターも
ペーパーナイフさえ持っているとしても
じっとしているこったろうね
「浅ましい食いしん坊め」
「何という時間の無駄だ」
ぶつぶつ言いながらじっと待ち
やがて大腸に至り、やっと直腸に至り
フンまみれで再び日の目を見る頃には
半分がた痩せてしまったこったろう
それでも狼の腸壁及び
コウモンを傷つけぬよう細心の注意を払い
その為に
腕時計さえ胃の中へ残して来たものだった
「全くお前はひどい奴だよ」
「許しがたいぞ、狼藉もの」
と言い置いて、尻に帆かけて戻って来ると
ひと風呂浴びて、存分食って
たっぷり眠って、翌朝になると
またぞろ庭に引っ張り出した寝椅子の上で
老眼鏡をかけ直し
読みかけの本の続きから始めるわけだ
雁や鴉が愛したように
私も大好きなコンラート・ローレンツ