ラバー・ソール
関口 ベティ
男はうろんな目で
メイビー・アイ・ラブ・ユー
と、どこかで聞いたようなフレーズを呟いては
またひとり
私をみながら笑っている
ギターをつま弾く彼の指は
長年の栄養失調のため
少しく 曲がっている
夜明けには雨がくるというが、どうであろうか
私は金柑を砂糖で煮ながら
周作を読む
甘い湯気で曖昧にぼやけた私たちの境界に
緊迫感のない断罪が
金属のメロディが
滲みながら落ちてゆく
今日でない明日ならば
ひとつ 何かを変えてくれると
沸騰してぐずぐずになった柑橘が約束する
そのような気が
したのだ