【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(2)
古月

(1)のつづき


11.『13日の金曜日』
言わずと知れたスラッシャーの王道。ホッケーマスクの大男ジェイソンがティーンエイジャーたちを皆殺しにするだけの映画。
これを語るにあたってはあえて伏せている部分があるのだが、いまやマイケル・ベイによるリメイク版も公開され、そんなの伏せても仕方ないような……と思いつつも伏せているので、ファンの人はいちいち「本当に観たのか?」とか言わないように。
個人的にはまともに見れたのは4(完結編)までで、あとはなんか、なんだろう、毎回変化球を狙ってぜんぶミスったみたいな仕上がりになっていて微妙な気持ちになる。
特に9作目『ジェイソンの命日』ではさすがに駄作すぎてマジで「13日の金曜日」シリーズの命日がきてしまったように感じたが、それから八年、2001年の『ジェイソンX』では奇跡的な大アクロバットを見せ、一転ジェイソンが大復活。なんと舞台は2455年、人の住めない星になった地球を脱出し、「第二の地球」を目指す宇宙船の中でジェイソンが復活して大暴れ。シリーズ後半の「どじで間抜けでちょっと可愛いジェイソン」という愛嬌のあるキャラクターから、「どうやって殺せばいいんだ……」という絶望感溢れる無敵の殺人鬼にジェイソンを回帰させ、なおかつ「ここまでやったらもう何でもあり」というバカすぎる設定を大真面目にやりきって作品の可能性を一気に広げたのも本作の成し遂げた偉業のひとつだろう。褒めすぎか!
この成功はジェイソン復活の呼び水となり、過去にファンサービス(?)として張られた伏線の回収もしつつ、稀代のお祭り映画『フレディvsジェイソン』に繋がった。ジェームズ・アイザック万歳! フィルモグラフィには他に『人間狩り』しか無いんだけど、仕事させてやれよ!と言いたい。
古い映画は苦手、という人はリメイク版『13日の金曜日』、『ジェイソンX』、『フレディvsジェイソン』だけ観てもいいです。グロ度も低く、コメディ要素が強いので安心。


12.『呪怨』
袖すりあうも他生の縁、という言葉があるが、「袖がすりあうくらいで何言ってんの?」と思ったらその程度の縁で呪われて殺されたでござる、という無差別殺人(幽霊)映画。触らぬ神にたたりなし!
古来から幽霊は恨みを残して死に、その恨みを晴らすために出てくるものと思われていたが、現代日本ではそんなのはもう古い!というわけで別に理由とか関係なくて、家に入ったら即アウト。ある意味すがすがしいというか、もう訳分からん。
監督は清水崇。『呪怨』シリーズがヒットしてしまったせいで不自由そうだが、他に『輪廻』(傑作!)や『戦慄迷宮3D』(微妙!)などを手がけている。
シリーズには、Vシネマ版『呪怨』『呪怨2』、その続編である『呪怨 劇場版』『呪怨2 劇場版』、さらに本人自らが手がけたサム・ライミプロデュースのハリウッドリメイク『THE JUON』『呪怨 パンデミック』『呪怨 ザ・グラッジ3』(監督は清水崇ではない)がある。
過去と現在をザッピングして描く手法で、その錯綜した時系列ゆえに浮上する多くの謎や疑問点がホラーファンの間で話題になった。ついつい大石圭の小説版に手を出してしまった人も多いんではなかろうか。
メインお化けは伽椰子と俊雄。殺人は伽椰子の仕事で、俊雄は主に怪異の先触れとして出てくる。『呪怨』が他のJホラーと一線を画するのは、「幽霊を人間なみにはっきりと映す点」。これは一歩間違えばコントになってしまう荒業であるが、見事に成功してしまった。初期の殺しは幽霊ホラーらしい節度を持つものだったが、だんだんその手口は派手にエスカレートしていく。もう普通のやり方では飽き足らないらしく、伽椰子も日々殺しの新機軸を考えているんだろうなあと思わせる面白さがある。
個人的にはだいたいどの作品にも不満はないのだが、唯一『呪怨2』だけはクライマックスのナニコレ感と、期待したわりにはテレビクルーという要素を上手く扱いきれていなかった点でガッカリした。
なお、シリーズの外伝(?)である『呪怨 白い老女』と『呪怨 黒い少女』は未見(というかあまり見る気がしない)ゆえ、ここでは触れない。
余談だが、ハリウッド版呪怨の三作目『呪怨 ザ・グラッジ3』の監督を務めたトビー・ウィルキンスのハリネズミ男ホラー『ダスク・オブ・ザ・デッド』は隠れた名作なので必見。呪怨ぜんぜん関係ないけど!


13.『女優霊』
Jホラーといえば中田秀夫、と知らしめたホラーブームの先駆け。
強いインパクトを残すのはどうしても折れ曲がったアレの角度とか表情とかなのだが、やはり幽霊は映っているか映っていないか、というギリギリの線が大切なのだと再認識させられる映画。
映画監督である主人公が撮影中に見つけた一本の未現像フィルム。そこには謎の女が映っていた。以前に製作中止になったらしいそのフィルムを見て以来、撮影現場では奇怪な出来事が起こり始め、とうとう死者が出てしまう。主人公はその「フィルムの女」の謎にとりつかれ、真実を探り始めるが……
「あってはならないもの」がそこにある違和感から「ふれてはいけないもの」に触れたい誘惑が生まれ、「見てはいけないもの」が見えてしまう。そうした禁忌の手触りが非常によく出ている傑作。現代の実話怪談にも通じるような、理由のない恐怖体験がリアルさを醸し出している。
ところで最近ハリウッドリメイク版が作られているのを知って驚いたが、面白いんだろうか。ストーリーだけ読むと微妙そうなんだけど……。


14.『ショーン・オブ・ザ・デッド』
ドラマ『スペースド』でブレイクしたイギリス人監督、エドガー・ライトの初監督作品。
『スペースド』からサイモン・ペッグとニック・フロストの二人の俳優を引き継いで起用、大ヒットを飛ばし、このコンビで監督第二作、ポリスアクションコメディの『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』も製作された。
毎日冴えない生活を送るボンクラのショーンは、ある日とうとう恋人のリズに振られてしまう。失意の一夜を過ごすショーンだったが、朝になってみると、なんと世界はゾンビの溢れる死の世界になっていた。ショーンは親友でさらにダメ男のエドと共に、愛するリズを救うために行動するが……。
とにかくゾンビ愛に溢れたこの映画、ホラーが苦手な人でもちょっとくらいのグロは我慢して、ぜひ見て欲しい。全編イギリス風の(?)シニカルな笑いに満ちており、死ぬほどシビアな状況にもかかわらず登場人物もみんなお気楽! やばい状況も笑顔とユーモアで切り抜けていく。
ゾンビ映画としては、登場するゾンビの数が多い(かなり多い!)ことがまずサイコー。そしてロメロゾンビをリスペクトした動きや習性、冒頭のゾンビ災害発生〜中盤の市外でのサバイバル〜ラストの篭城までの流れ、ツボを押さえたスプラッター描写、全てが完璧すぎて生きるのが辛いほどの出来。世の中にあるあまたの糞ゾンビ映画を正座させて「コメディ映画でもここまでできるのに、なんでお前らはできないんだ!」と説教したいレベル。
最後には「愛する人間がゾンビになったらどうする?」というおなじみのテーマや、大人になれないダメ男ショーンの成長、リズとの愛の行方など、涙なしでは観られない感動のドラマも満載。「ゾンビ映画でどれか一本選ぶとしたら?」と聞かれたら間違いなくこれを推す逸品。
余談だがこの映画は日本では劇場公開されず、続く『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』も未公開で終わりそうだったのだが、ファンによる大規模な署名運動がネットで巻き起こり、めでたく上映が実現した。もうこれだけで面白そうでしょ!
というわけで、この映画が気に入ったら、是非『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』も観よう、ていうかもう最初から二本いっしょにゲットすればいいいんじゃないかな。どうせ傑作なんだし……。


15.『死霊のしたたり』
クトゥルー神話ベースだがそんなことは微塵も感じさせない、『死体蘇生医 ハーバート・ウエスト』の映画化。毎回首だけのキャラクターが出てくるのはお約束なのか。
なにしろ監督がスチュアート・ゴードン、二作目と三作目はブライアン・ユズナなのだから出来は推して知るべし、全編血しぶきでグチョグチョドロドロのバカホラーになっている。ジェフリー・コムズの(別に何もおかしなことをしていないのに完全にイカレてるように見える)怪演が素敵。
むやみやたらにテンションの高い一作目をピークに出来は下降線を辿るが、登場人物のほとんどが頭がおかしいので安心。切断された首が蘇生! テレパシーを使って死体を操作! 人間のパーツをくっつけてフランケンシュタイン(の花嫁)を製作! そしてトドメは「脳から抽出したプラズマエネルギー」を死体に注入することで、完全な蘇生まであと一歩! 続編はまだなのか!
とにかくズバズバ人体を損壊して、そのバラバラ人体がクネクネ動きまくるのがだんだんツボにはまってきてウケる稀代の怪作。
改めて見ると当のウエスト自身は案外まともで、周囲の人間が勝手に暴走して勝手に自滅・事態を悪くしてるのが面白いな、と思った。


16.『死霊のはらわた』
サム・ライミ監督による超パワフルスプラッター映画……のはずなのだが、今見ると当時のSFXの出来は非常に微笑ましく、ひとつも怖くない。
ブルース・キャンベルについても現在の彼にはコメディ・リリーフとしてのイメージが強くあることもあって、おそらく公開当時の感覚では見られないんだろうなと思うと遅れてきた者の寂しさを感じる。
人里離れた山荘を舞台に、ひょんなことから死霊を蘇らせてしまった若者たちの災難を描く本作の見どころは、やっぱりサム・ライミの天才的な演出。自分の友人や恋人がゾンビになって襲い掛かってきたら……という恐るべき状況を描いていながら、なぜか悲壮感漂う展開どころか狂騒的なドタバタが繰り広げられる。
この徹底的にアッパーなテンションは、続編というよりもセルフリメイクの『死霊のはらわた2』でさらに爆発し、ついにはコメディ・ホラーの域に達する。ミュージカル的、あるいはディズニーアニメ的な空気すら時には漂わせつつ、前作よりもはるかにスケールアップした死霊とブルース・キャンベルとの大騒ぎが楽しめる。ラストには前作にはない派手なイベントが待ち構え、なんとなんとの衝撃の結末、そしてまさかの超展開! 時空を超えて異空間に飛ばされたブルース・キャンベルは、第三作『死霊のはらわた3 キャプテン・スーパーマーケット』で、中世のようなファンタジー世界に自動車ごと放り出され、救世主として魔族と戦うことになってしまう。片手にショットガン、片手にはチェーンソー、男のロマンを体現したような出で立ちでクールに決めるブルースに姫もメロメロ。まあブルースは相変わらずバカで間抜けなんだけどね。
そして今後撮影されることはあるのか?とたびたび話題になる『死霊のはらわた4』だが、ほんとにどうなんだろう。ブルース・キャンベルも『バーン・ノーティス』とか見てると、メタボってるけどまだまだ男前でイケそうなんだが。元気なうちにどんどん撮影してくれないかな。まあ予算と暇がないんだろうけど。


17.『スクリーム』
個人的に超超オススメ! 衰退していたホラーブームを90年代に再燃させた立役者である大ヒットホラー。
監督のウェス・クレイヴンと脚本のケビン・ウィリアムソンの実力がいかんなく発揮された大傑作で、過去のホラー映画のお約束やパロディを数多く取り入れた、いわゆる「セルフパロディ」でありながらもマジで怖いという、ホラー映画の新たな立ち位置を切り開いたエポックメイキング的作品。
このヒットを受けて一時期、ティーンエイジャーが死にまくるスラッシャーが数多く作られた。『ラストサマー』、『ルール』、『バレンタイン』、『鬼教師 ミセス・ティングル』などなど。この路線は最近でも細々と作られ続けているが、いまや当時の輝きはすっかり衰えてモンスターホラーに傾いている節もあってあまりノレない。『カースド』とか『ヴェノム 毒蛇男の恐怖』とかね。
さて『スクリーム』に話を戻すが、この映画の面白いところは、「誰が犯人なのか?」という謎解き要素を強く押し出した点だろう。観客に向かって数多くの手がかりが提示され、誰もが犯人に思えてくる。そして「こいつが犯人だ!」と思ったら違った!というどんでん返しの連続で、けしてフェアではないのだがミステリ小説的な楽しみがある。
シリーズを通して物語は一貫して続いており、現在はオリジナルキャストが継続して出演する新三部作の第一弾『スクリーム4』が公開予定。


18.『スペル』
サム・ライミ監督が『スパイダーマン』を経て再びコメディ・ホラーに戻ってきた!
『死霊のはらわた』で見せたパワフルな演出はそのままに、またしても死霊(としか言いようのない婆さん)とのドタバタバトルが見れるというわけでファン大歓喜。
銀行員である主人公は「厳しい決断もできないと出世はできないよ」と上司に言われ、返済期限の延長を頼みに来た奇怪な老婆の申し出をバッサリ断る! これで出世間違いなし、と思ったのも束の間、老婆によってかけられた呪いのせいで、数日後には地獄に落ちることが確定してしまう。
とにかくいろんな意味でテンポがいいのと、「なんでやねん」と突っ込みたい場面が続出で、かなり悪趣味な笑いもあるのだがどれも陽性なのでついニヤニヤしてしまう。
内容はほんとにおバカの一言なのだが、物語の登場人物はみな至って真剣、スリリングである。ストーリーテリングの巧みさはさすがで、周到に張られた伏線も最後にきれいに回収されてスカッとする。まあスカッとしていいのかどうかは分からないんだが、なんていうのかな、不本意ながらスカッとしたていうか、ぜんぜんスカッとしてないのにスカッとしたような気がした!
まあ実際に観てくれればわかるので観てください。グロはないです。ゲロはあります。


19.『スリザー』
叫ぶ前に口をふさげ! のキャッチコピーがむやみに秀逸。
『ドーン・オブ・ザ・デッド』の脚本家ジェームズ・ガンによる初監督作品は、まさにB級ホラーのいいとこどり!
とある田舎町に落ちてきた隕石、その中から現れたのはなんと宇宙生物スリザー。巨大なヒルかナメクジそっくりのそいつは人間の口から入り込んで脳に寄生する。またたくまに大増殖したスリザーたちによって町は大混乱に陥り、寄生された人間たちもまたゾンビと化して生存者を襲い始める。
もうほんといい加減にしろ!というレベルでグチャグチャ方向に突き抜けた映画。スリザーのヌメヌメ感を出すために用意されたのは大量の「大人のオモチャ用ゴムジェル」! そして撮影のために全米中のシリコンを使い果たしてしまい、追加生産には一ヶ月を要したという。これだけでもこの映画がどれだけ凄いか分かってもらえると思う。
とはいえ悪趣味なだけの映画ではなく、監督のジェームズ・ガンはこの映画を作るにおいて登場人物のキャラクター造型とドラマにとりわけ力を注いだ。どこの誰とも分からない人間が死ぬのをただ見ているだけではなく、感情移入できるキャラクターがいてこそ映画のスリルを共有できるというわけ。
最後は夫婦愛の物語になるこの映画、おもわず感動で涙が……とはならないかもしれないけど、笑ったりビビッたりしんみりしたり、とにかくスリリングなひとときを過ごせるのではないでしょうか。そうそう、大塚芳忠ファンは吹き替えで必見!


20.『鮮血の美学』
街へコンサートを観に出かけた少女とその友達が、ちょっと羽目を外してマリファナでも……と考えてしまったばかりに悪い男たちに監禁され、森で陵辱・殺害されてしまう。その森は被害者の少女の家のすぐ近くで、車が故障して立ち往生してしまった男たちは、偶然にも少女の両親の家に、一夜の宿を求め……というお話。
少女が「今日は私の誕生日!」という幸福の絶頂からスタートして、ちょっと大人の階段を登ってみるドキドキを経て急転直下、人生最悪の体験をさせられ無残に殺されてしまう展開はさすがに見ていて辛かった。少女の友人が着衣のままで失禁を強要される場面が特に印象深い。
だが、そこからの超展開には前半の鬱鬱とした空気を一気に吹き飛ばす異常なエネルギー(思わず笑ってしまうくらいの)がある。客人に娘を殺されたことに気付いた両親の恐るべき復讐は、似たようなホラーが星の数ほどある現代においても、なお色褪せない独特の狂気を孕んでいる。
本作は『エルム街の悪夢』で有名なウェス・クレイヴンの初監督作品で、製作は『13日の金曜日』のショーン・S・カニンガムということもあり、妙にカルト的な人気を誇っているが、まあ、そこまで面白くもないので期待しすぎないようにしたい。
ちなみにDVDは廃盤なので、レンタルショップなどで見つからなければ、2009年のリメイク版(展開がややソフトになっている)を見てみてもいいかも。でも、リメイクとオリジナルでは天と地ほど違うので、できれば本当にマジでオリジナルを見ましょう。


(3)につづく


散文(批評随筆小説等) 【批評祭参加作品】 現代ホラー映画50選(2) Copyright 古月 2011-03-04 20:28:24
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第5回批評祭参加作品