高校卒業と一緒にバイクも卒業したみんな
一 二
ねぇ覚えているだろ
バイクは校則で禁止されていて
母さんとかにも止められたのに
みんなでこっそり取りにいった
原付の免許を
お前なんかは
父さんの乗らなくなった
ZEPHYRに乗るって言って
飛び入り試験に何回も落ちてまで
中免取ったんだ
特に思い入れあるだろ
俺は父さんからもらった
ボロボロのDioで
同じボロボロでも
400ccの中型のお前は
俺にとっては
凄くカッコよかったよ
覚えているだろ
みんなで阿蘇に行こうってなって
ベテランライダーのワインディングを
生で見てみようって
その時の俺たちは
凄く目がキラキラしてさ
「絶対スーパースポーツに乗る」だとか
「無理してイタリアンバイク買う」だとか
「絶対ネイキッドしか乗らない」だとか
「kawasaki以外乗りたくない」だとか
「ビッグスクーターは邪道」だとか
「車を買ってもHONDAかSUZUKI
最低でもYAMAHAのエンジン積んだ
TOYOTAしか乗らねぇ」だとか
これからのバイク人生楽しむって
みんなで約束したじゃんかよ
でもさ、だんだんみんなが
バイクじゃなくて
車の話するようになったじゃん
俺は話に付いていけなくなったじゃん
俺はそのとき凄く
悲しくなったのを覚えている
覚えている
みんな言ったじゃんかよ
低い車高にエアロつけて
うるさいマフラーに
モコモコの綿の装飾品つけて
倖田來未とかの音楽をガンガン鳴らして
ムーブに乗って田舎で意気がる
先輩達みたいになりたくないって
俺たち車の免許とっても
バイク一筋だって約束したじゃん
バイトの帰り道
みんなは免許とっても
四月までは乗っちゃいけないのに
もう車に乗っている
親だか兄弟のだか知らないが
その車はHONDAやSUZUKI
ましてやTOYOTAでもない
俺はボロボロを通り越して
ガタガタになったDioにまだ乗ってる
「おめぇ、まだ乗ってんのかよ」
「いい加減、卒業しろよ」
「俺は事故って怪我したの忘れようとしてんだよ思い出させんなよ」
みんなが言うことは
もうバイクを忘れた人間の台詞だ
俺は決まって、こう言い返す
「俺は、まだ乗るよ
金貯めて大型取るよ
絶対Ninjaも買う
みんなで見に行った
阿蘇に集結するベテランライダーみたいに
運転もきっと上手くなる
車は仕事とかで必要になったとき乗る
でも楽しまないし、きっと楽しめない」
そう言って俺は家に帰る
みんなは車に乗って、どっかに言った
家に帰ると
スーパー・カブが待っている
昔は陸王に乗っていた爺ちゃん
凄く大事にしていたけど
ある日壊れて
修理しようにも
陸王の会社自体が無いことと
レストアしようにも
お金が掛かりすぎることから
泣く泣く陸王を手放した爺ちゃん
「もう、でけぇバイクは
一人で起こせねぇし
八の字も無理だ
こいつ(スーパー・カブ)で充分」
と言って次の日
スーパー・カブを近くのバイク屋で
買ってきた爺ちゃんは
凄く辛そうな目をしていたのを
俺は覚えている
覚えている
父さんは昔は
Z1?Rに乗っていた
しかし民主党さんのお陰で
家の土木屋が潰れて
自営業から正社員になってしまったとき
爺ちゃんと同じ目をして
買取りの査定を受けてきた
けれどDioだけは残してくれた
両方とも
俺はタンデムシートに乗せてもらい
そこで見せてもらった景色を
いつか俺は運転席でも見たかった
でも、もう家には無い
「ねぇ、大人になると
バイクに乗れなくなるのかな?」
そんなことをDioに話しながら
メンテナンスをする
「金が貯まったらNinja買うんだ
そんときは、もうお前には乗らないと思う
ごめんな」
あと何回、こいつに
乗せてもらうんだろうか
自分の身の回りから
バイクに関することが消えていくが
きっと、こいつは俺より辛い
そして次に乗るであろうNinjaにも
いつか乗れなくなる日が来る
俺は子供のままで良い
あきらめない
ずっと乗る