すぎる傷口
健
時がすぎる
ひらり 舞い踊るように
いくつもの掌から巧みにのがれて
はやすぎる
スピードで通りすぎていく
再び口を開いて何事かを囁く
すぎさったはずの君の傷
ゆっくりと
おそすぎるぐらいに
ゆっくりと
君を飲み込もうとしている
+
休み時間が終わったのは
遠い昔の話で
窓から見える教室には
必死で思い出を書き記す大人たちの姿
顔を上げない彼らの前で
黒板が黒く塗りつぶされていく
手探りで何かを探す机の中に
チョークの粉が舞う
+
ごくり
と
喉の鳴る音がして目が覚めた
開いたまぶたの向こう
眩しさが
何も言わずに通りすぎる
言葉を口にしようとして
傷の上にできた かさぶたに気付く
指先で触れてみると
微かに叫び声が聞こえる
小さすぎる
大きさで
声が
聞こえる
+
時がすぎる
ひらり 舞い踊るように
いくつもの掌から巧みにのがれて
はやすぎる
スピードで通りすぎていく