Crusader's loneliness
いとう
「俺の前世は十字軍戦士だったんだよ」
ろれつの回らないボビーはアスファルトに倒れ込むが
その目は始発に向かう群れをまだ狙っている
“Are you OK,Bobby?”
“Don't say Bobby,but Bob.”
「俺はもうボビーなんて言われる子供じゃねぇよ」と
この夜何度も交わされたジョークに
童顔で色白のボビーはムキになって応える
今日のナンパが不発に終わってかなりご機嫌斜めらしい
電話番号聞けたからいいじゃないかとなだめても
それじゃダメなんだと駄々をこねるボビーは
あの頃は死ぬほど女抱いてたんだと
思い出話を唐突に始めた
「なんで十字軍が女抱くんだよ。それにあんたはアメリカ人だろ」
「アメリカ人は関係ない。俺にはわかるんだ」
“JustIknow.I'd been a Crusader.”
遠征の初めはみんな燃えてたよ
でも俺たちは田舎者の集まりだったから
聖地がどこにあるかなんて誰も知らない
神様が導いてくれると信じてたんだ
行く先々で歓迎を受けてた頃は良かったんだけど
そのうち相手にしてくれなくなって
食い物も底を尽いて
結局田舎者は無法者になっちまって
行く先々で村を襲ってたんだよ
始発も過ぎてついでにカラスも消えて空はもう明るい
「飲み直そう」
「基地に帰らなきゃ」
「もう?」
「Yes.もう襲う村もなくなったから」
そして
「知ってるだろ。俺は十字軍戦士だったんだ」と彼は
さよならも言わずに1人地下鉄に向かう
“Just you know.I'd been a Crusader.”
彼は海軍のサブマリナーで
来週にはインド洋へ行く予定だ
帰ってくる頃には
電話番号の女なんか忘れている