空咳
たもつ
紙に押した自分の指紋で
迷路をしなければならない
広い会場のような所にわたし
そして試験監督みたいな格好をした人
二人だけで向かい合って着席している
何度やっても
わたしの指紋にはゴールがない
挙手をして
ゴールがありません、と告げる
大丈夫です、時間に制限はありませんから
そう言われたのが春の初め
今ではすっかり真夏になり
良く効いた冷房の中
ゴールを見つけようとしている
このまま秋が来て冬が来て
ひとつずつ年を取っていく
そんな生き方や死に方も悪くはないかな
と思うことにも慣れ始めてきた
骸骨だけになっても
ゴールを探し続けるのかもしれない
その頃にはもう指紋も無いのに
窓の外では関係のない人たちが
色々なことをして汗をかいている
癖だろうか
試験監督みたいな格好をした人が
二回、三回とまた空咳をする