空咳
たもつ

 
 
紙に押した自分の指紋で
迷路をしなければならない
広い会場のような所にわたし
そして試験監督みたいな格好をした人
二人だけで向かい合って着席している
何度やっても
わたしの指紋にはゴールがない
挙手をして
ゴールがありません、と告げる
大丈夫です、時間に制限はありませんから
そう言われたのが春の初め
今ではすっかり真夏になり
良く効いた冷房の中
ゴールを見つけようとしている
このまま秋が来て冬が来て
ひとつずつ年を取っていく
そんな生き方や死に方も悪くはないかな
と思うことにも慣れ始めてきた
骸骨だけになっても
ゴールを探し続けるのかもしれない
その頃にはもう指紋も無いのに
窓の外では関係のない人たちが
色々なことをして汗をかいている
癖だろうか
試験監督みたいな格好をした人が
二回、三回とまた空咳をする
 
 


自由詩 空咳 Copyright たもつ 2011-03-02 21:10:51
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