なんという幸運
木屋 亞万

封筒に花をつめて贈る
もう届くはずのない海の底
砂とコンクリートで満たされた場所で
白骨化した魚類たちと眠っている
赤いポストに届けたい

気取るつもりはないけれど
想いを物に変えて何かを贈りたい
浜風に乗って海面を流れていくのではいけない
贈るなら心臓に埋め込むくらいでないと

花を摘むとき指先は
物質でないくらいのやさしさで
包み込むべきなのだろう
風のようにさりげなく花びらを散らし
ひとつ残らず封筒で受け止めていく
樹木の柔らかな爪先で袋を満たす

口付けでもないのにチュンチュンと
飛び回りながら鳴いている野鳥の唇に
ごそりと花びらを奪われた
愛する鳥でもおるのかと尋ねたならば
そうではないと言う

 中毒ではないのだが
 温もりが不足していて
 声を欲しているのだ
 できれば天使に似た声で
 柔らかい耳ざわりのものを

空気を突っつくように小鳥は続ける

 密室で風は起きない
 水槽に波は立たない
 一人では寝られない
 花無しでは死ぬこともままならない
 死にたての花びらで
 私の棺を満たしてください

ひとしきり想いを告げた鳥の子は
赤いポストの腹の中へ旅立っていった
あらかじめ僕はそのことを知っていたので
封筒に花を詰めていたというのに

とんだ早とちりだな君は
そう思いながら僕は
風のようにやさしく
息を吐こうとして
誤って涙をこぼした

なんという幸運と
海底から
一粒の



自由詩 なんという幸運 Copyright 木屋 亞万 2011-03-02 02:30:02
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