制服を脱ぐとき
山岸美香

黒いソックスを穿いて
指定された紺色のカーディガンの上に、黒のブレザーを羽織った。
今日も学校に行かなくては
何の為に、卒業する為に。
制服を着ると体が微かに緊張感を保ち
胸を真っ直ぐに張ろうとする
それが私にとっての制服で
だらしなく着こなすものでは無かった。

自転車で駆ける道では
笑顔とも泣き顔とも言えない自分の表情が焼き付く。
突き放すようにされたとしても
陽に照らされては沈みきれなくて
そのまま置いてきぼりにされた。
暗くなった道では表情は見えないからよかった
不器用とか不出来だと思う部分を
車道を走る車のライトに何度も責められた。

さよならする為の制服を着て
体が壁に少しだけうなだれる。
卒業式が終わったら
ざわめいた校舎から出て行く
そして制服から違う服に着替えて
これからの場所に入って行く

あたらしいものに変わっていく為に
手触りで感触を確かめながら
服の裾と一緒に笑って
どこかで春になる。


自由詩 制服を脱ぐとき Copyright 山岸美香 2011-03-01 23:19:48
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