制服を脱ぐとき
山岸美香
黒いソックスを穿いて
指定された紺色のカーディガンの上に、黒のブレザーを羽織った。
今日も学校に行かなくては
何の為に、卒業する為に。
制服を着ると体が微かに緊張感を保ち
胸を真っ直ぐに張ろうとする
それが私にとっての制服で
だらしなく着こなすものでは無かった。
自転車で駆ける道では
笑顔とも泣き顔とも言えない自分の表情が焼き付く。
突き放すようにされたとしても
陽に照らされては沈みきれなくて
そのまま置いてきぼりにされた。
暗くなった道では表情は見えないからよかった
不器用とか不出来だと思う部分を
車道を走る車のライトに何度も責められた。
さよならする為の制服を着て
体が壁に少しだけうなだれる。
卒業式が終わったら
ざわめいた校舎から出て行く
そして制服から違う服に着替えて
これからの場所に入って行く
あたらしいものに変わっていく為に
手触りで感触を確かめながら
服の裾と一緒に笑って
どこかで春になる。