言い表せない
寒雪



きみのこころが冷たくなった夜
横たわった気持ちを抱え込みながら
静かに目を閉じて仰向けなきみを
見下ろしてぼくは見ているはずの
きみの輪郭をおぼろげにしか
コピーすることが出来ない
月が何センチ移動したのか
雲がどれだけ形を変えたのか
わからないくらいの時間
ぼくときみの間に漂う
質感を伴った不躾なまでの沈黙
手を伸ばせば
きみのおぞましい肌の感触を
はっきりと確かめることが出来るのに
理解してしまうとぼくが
ぼくでなくなってしまいそうで
ぼくの腕はぼくから
離れてくれないでいる


本当は
こんな時はきみのベッドを埋め尽くす
大量の花に負けないくらい
たくさんのぼくを表した言葉で
きみを覆い隠してしまいたかった
でもぼくの中にある感情の
とてつもないスピードで彷徨う
情けない様があまりにも混ざり合ってしまって
言葉がどっかにいってしまって
干上がった井戸みたいに空っぽで
何も言わず立ち尽くすぼくは
悲しみに塗り潰されてしまっている
知らない人が見たら誤解するに違いない


広辞苑はあんなに分厚いのに
ぼくはその万分の一も理解してなくて
自分の今をぴったり言えなくて
もどかしさに
ぼくは思わず身をよじる
そんなぼくを上から見下ろしている
きみは薄ら笑いを浮かべて
優しくぼくの頭を撫でているかもしれない
なんてことを考えている
そうであるといいと思っている


自由詩 言い表せない Copyright 寒雪 2011-03-01 09:38:24
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