毛布があったかいうちに
とんぼ

今朝
布団がふっとんでいった
どこまでふっとんだかは知らない
布団の裏には彼がしがみついたままだった
別れ話を始めたのは深夜で
彼は私の布団をかぶって
何も聞えないふりをしていた
そのまま朝を迎えて
まず屋根がとんで
次に窓がとんで
それからカーテンと一緒に引っ張られるようにして
布団がとんでってしまった

家具がみんな吹き飛ばされてしまった部屋はがらんと
くしゃみが響く
カーテンのなくなった部屋の中を
外からぶしつけに人が覗く

問題はそこじゃない
窓ガラスをどうしよう
天井をどうしよう
雨風をしのげないし寒いし花粉が入るし
どこで買ってきたらいいんだろうでも

問題はそこじゃない
はずなのに
彼をどうしようと
思うように思えないので
これで別れ話はおしまいだったんだなあと思う

わたしは押入れにかろうじで残ってた毛布を出して
床に広げる その上に寝転んでみる
背中が冷たい
肩甲骨ふたつ分の痛みが背中を突き抜けて
心臓をちくちくと刺す
ああもうここじゃあだめなんだなあと、わたしはようやく納得して
毛布にくるまったまんま部屋を出た
走って走って
遠くまで行こう


自由詩 毛布があったかいうちに Copyright とんぼ 2011-02-28 01:01:54
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