さち子さんに
オイタル

今日も
一筋の煙が空に立ち上る

さち子さん
崖の上から張り出した
痩せた木の枝に腰掛けて
いくつものブーツやハンカチや
涙やさよならなんかを
見ている

窓の裏の田んぼの中で
透き通る幾百の影が
飛行機の爆音にあおられて一斉に
帽子をなびかせる

さち子さん
いつか全部の貯金をおろして

贅沢な定食を食べに行こう 一緒に
例の
田舎の町ではちょっと大きい駅前の
広場の隅の定食屋さんね
こうしている間も
世界はどんどん収縮を続けていて
北アフリカのどっかの国の将校が
ちょいと右手を伸ばして
僕らの朝食を引っさらって行くかもしれないじゃないか
腹をひねって波しぶきを上げる
イルカだかクジラだかの
ひねった歌に聴き惚れて 僕らも
キッチンに残したご飯を食べ忘れて
しまうかも知れないじゃないか

だからね
あなたはもう
ご飯を食べるのもちょっと
しんどいのかも知れないけれど

さち子さん

それから その後で
煙に身を任せてゆっくりと
立ち上っていけば
いいじゃないか

さち子さん


自由詩 さち子さんに Copyright オイタル 2011-02-27 20:28:50
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