みていた
はるな
冬と春が手をつないでいる夕方に
静かに立ってそとをみていました
わたしはもう少女ではなく
絶望と仲良くもありません
ひとりで
静かに立ってそとをみていました
燃えつきる煙草、蘭のつぼみ、端がめくれたふるい手帳、もらいものの音楽、卒業式の写真、明かりのついていく町なみ、笑い声と、女学生の白い靴下
カーテンのゆれる速度にもついていけなかった
少女のころのわたしはもうどこにもいません
置き去りになった自転車、さめたコーヒー、夢みたいなたくさんの記憶、穴のあいた絨毯
バス停で待ちくたびれたり、スーパーマーケットに漂う幸福、それを選びながら帰り道、まっ昼間にするセックス、身体ひとつでどこまでも行けるような気持ちになったり。
あんなに遠かった日常はいま
わたしのまわりを正しく満たしていて
そのしあわせに戸惑いながら
静かに立ってそとをみていました