308号室 / ****'04
小野 一縷

苦痛の中に感じる快楽
快楽の中に感じる罪悪
罪悪の中に感じる恍惚
恍惚の中に感じる失意
失意の中に感じる優越

頭の中で千匹の回虫が
サラサラ崩れる米の山ように ざわめく
額の汗はきっと苦い

サディストの外科医は麻酔を否定する
「執刀に身を任せて切り刻まれろ 痛みと和解しろ」
サタニックな心霊術師は安堵を否定する
「お前の心は悪霊に取り憑かれた 絶望を了解しろ」

変態性癖のある院長はナースの実娘と近親相姦
潔癖症の脳外科医は鋸メスと鉗子のコレクター
不眠症の薬剤師は合法スピードボールで荒稼ぎ

 心にもたらすのが高々平常心なんて 第四世代の抗鬱剤はクソだ
 眠くなるまで重々しい昔ながらの精神安定剤
 飲みすぎればマジで逝ける睡眠薬
 不安と記憶を窒息させる殺傷力の高い旧世代の抗鬱剤
 要するにシャブと同じ精神刺激剤 砕いて鼻からやればコカインだ
 
俺の体中の傷跡から二十五年以上昔の縫合糸が生えてくる
俺の左腕に移植された下腹部の皮膚から陰毛が生えてくる 

処置の痛みに怯えて よく小便を漏らした
壁の黄ばんだ うす暗い病室
痛みに狂った子供が 入れられる病室

手術から一ヶ月 やっと許可が出て 入った風呂
その鏡に映った身体を見て 
「ぼくは改造人間になったんだ わーい」

この身体を これからも被験体として観察する

強い探究心が 敵の不在 即ち無敵 精神的圧勝に勃起する
勝利という喜びを求める 空想
敗北という酔いを求める 夢想
勝ちも負けも 考え方次第とか言う 博打童貞の宗教家

快感にだけ 要件がある
他の感覚や感情には この際インポで結構
俺は自由 気侭で 我儘 手放さない童心 子供で結構
あとは積極的に行動 必ずモノにする

さあ
勝ちに行こうぜ 気分良く
ああ
渋谷に行けば イランなんていくらでもウロついてるさ



「308のKさんだけど・・・」

「・・・あれ、精神的な医療ミスじゃないのか」

「・・・あってはならないことだね」

「まあ・・・実際こうして、よくあることだけどね」

「まあ、飽きた頃に全快ってことで退院させるさ」

「まあ、世間で騒ぎ起こさなきゃ何でもいいけどさ」

「退院したキチガイの行動責任まで問われるからな、今は」

「まあ・・・なんにしてもこんな現在、精神疾患にだけはなりたくないものだね」

「でもまあ、ヒキコモリ(笑)してればいいから楽でいいかもね」

「まあ、あと犯罪起こした時の言い逃れとしても多少有効だけどね」

「世間体は厳しいと思うけど」

「とりあえず、そうゆう妄想ね(笑)」

「それで益々ヒキコモる(笑)」

「とにかく、正常な精神でいられないだなんて、ご免だな・・・」

「しかしそんな事態に自分自身が陥るだなんてこと・・・ボクには想像出来ないな」

「まあ、ぼくには有り得ないことだけどね」

「僕も」「私も」「自分も」

 一同  「有り得ない」






自由詩 308号室 / ****'04 Copyright 小野 一縷 2011-02-23 14:33:54
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