ウイルスの夜
いとう



隣りでは君の咳が止まらずに
ウイルスが部屋中に降り積もって
負けじと僕も僕のウイルスを飛ばしながら
お互いのウイルスは僕らと同じように仲良くしてるのかなんて
そんなこと
どうでもいいよね
お互いダウンしちゃって
二人仲良く手をつないで
ベッドの中で
青息吐息

二人とも重症でね
高熱にやられちゃって
「おやすみなさい」なんて言ったら
別の意味に受け取られそうな
そんな切羽詰った状況なのに
でもそういうのがなんか嬉しかったり
でもそういうのがすごく幸せだったり
ヘンだよね
いや、ヘンじゃないか

部屋の中にはウイルスだけじゃなく
見えないくせに
きちんと名前のつけられた
不安とか
ためらいとか
たとえばそんなものも一緒に
たとえばいつまで幸せでいられるのか
たとえばこのまま二人でやっていけるのか
あるいは
たとえば
もしかしたら

夜だからあたりまえなんだけど真っ暗でね
お互いの顔も見えずに
話す気力もなくて
手の温もりだけを感じながら
(温もりだなんておしとやかな熱さじゃないけど)
いろんなものが降り積もって
知らないあいだに降り積もって
それでも二人は
ゆっくりと
朝を待ってるんだろうね
時計の音なんか
聞いてるんだろうね  




自由詩 ウイルスの夜 Copyright いとう 2003-10-14 13:09:15
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