マヌエラの猫たち
アラガイs


真っ暗な闇なんてある筈もない
重しを引きずったまま眠りにつくということ
それは、直線的な光りをも閉じ込めてしまう
と、いうことだろう 。

マルタ島にはマヌエラという男がいて
野良猫が恋人だから結婚はできないと
公園に餌を運んでは一日中潮風に浸り
日射しと呑気に佇んでいる。
缶詰めが開くと船着き場から小さな鳴き声がゆっくりと集まってくる
それでもマヌエラの瞳には
何故か眠るような鈍い光りが屈折して閉じ込められていた 。

佇めば暦の過ぎるのもはやい
晴れた日にはよく口喧嘩になる 。
最近母親が惚けてきている。
年寄りはいつも他人にはやさしく接しすぎると
注意したその口からわたしが冷たい人間にみえてきた。
家の窓を開けたら毛玉の猫がおもいきり飛び出してきて
白い庭先はもうすっかり春らしい青空に照らされている
)いきなり大きな声に驚くと(
猫の耳はチューリップに逆立ち
晴れた日の光が八面鏡石のなかで反射を繰り返す
重力に逆いながら生きているモノ。
そして二人と一匹がともに眠るとき
互いは記憶のなかで孤独なのだ 。
飼い猫にこころを奪われていると結婚は遅くなる
むかし恋人が言った言葉を今でもときどき思い出す 。

その日テレビでみた。
マルタ島の青い海岸にはマヌエラという男がいて
猫が恋人だから結婚はしない
と、笑顔で言った。
それでも何故か重たそうに
虚ろな瞳で
一日じゅう野良猫をみつめていた 。








自由詩 マヌエラの猫たち Copyright アラガイs 2011-02-22 00:38:07
notebook Home