時をかける少女
オノ
少女の掌で胡桃が弾けた。
【791】と少女の手首に表示された。
残り回数の多いタイムマシンは安くない。
800万円ぐらいする。
「それでも、これを使うしかなかったのだから。」
少女はため息混じりにつぶやいた。
彼女には変えたい過去が多すぎた。
少女は試しに少し前の―いい加減な日付にワープする事にした。
「2010年7月2日。」
少女が駆け出すと、周囲の景色が歪み、サイケデリックな模様、
歪んだ数字、オーロラのような波、様々なものが少女の傍らを
信じられない速度で通過していった。
少女は思わず目を閉じて、その轟音と、滝のように流れる視覚が
去っていくのを待った。
蝉の声がした。
少女は目を開けた。
彼女はベッドの上に横たわっていた。
2010年7月2日の朝だった。
少女はベッドの上で小躍りしたあと、彼女の手首を確認した。
これでタイムトラベルできるのはあと【790】回か。
もう少し考えて使えばよかったかもしれない。
何せ800万円もするからなあ。
少女は手首を確認した。
そして少女は、彼女の手首を確認した。
すると、少女は手首を確認した。
数字がなかった。
【S社 タイムトラベルマシンサポート窓口】
彼女は震える手で電話した。
「あの、タイムマシンを、791回分のタイムマシンを買ったんですが、
ちょっと昔に一回ワープしたら数字が消えちゃったんですけど、これ
初期不良ですかね。」
電話応対の女は落ち着いた口調で言った。
「お客様、商品をご購入される前の過去までトリップされたのですか?」