トリガー
甲斐シンイチ
自己啓発の類の本が驚くほど出版されている。
『〇〇で人生が一変する』
『成功する〇〇の秘訣』
『もう迷わない〇〇の整理術』etc...
とりわけその中でも哲学書の内容を百倍に薄めたような訳書が売れている。
読書というのは愉しむものであって、それによって何かが変わるとか、
何を期待しているのだろう。
本で人生が変わるのならそれまでの人生を哀れむしかない。
変わるのは、そもそもがそういう性質をもっていたからだ。
お人好しはどう頑張っても、人殺しをどう足掻いても、そういうもの。
トリガーが引かれるだけなのに。
本がその人間のDNAになって、新しい人間に創りかえる、なんてことはない。
諦めろって。
お前らそんなに自分が嫌いか。
勉強だけではなく、人生や考え方までもテキストが無いと、、なのか。
大体、気に入ったり、気になったりした本なんて、結局は自分の趣味や性質に適合したものだから、トリガーにならない。
強引に人から押し付けられたものの中にトリガーはある。
俺は隣人の爺さんにこのように捲くし立てている。
読書なんかより、隣人との付き合いが大切なのだ。
生のコミュニケーションの中でしか、自分の本質は引き出されないのだ、と。
口角泡を飛ばしながら言った。
我ながら頭のかったい話に聞こえるんじゃないかと思っていたが、
ひとしきり演説が終わると、
クソジジイのような俺の話にリアルジジイは言った。
「単なるブームじゃね」
やっぱりこの爺さん、、、
俺の中で何かが弾けた。