肌あわせ
月乃助
うすあかりの光りがまだら模様をえがく夜
わたしは、私を忘れる
「風が出てきたみたいだ。梢の影が踊っている。
ここには、街灯はないのだから…」
「月明かりね。風音が変わったのに気づかなかったわ」
「あんなに乱れていたら、気づきようもないだろ。
森をふるわすような声で、鹿たちもびっくりしていた」
「鹿?うそばかり」
「いや、さっき木の実を食べにきていた」
「そんなことが分かるの」
「気配でね。庭の実はもう残りすくないけれども」
「あなたは、肌を合わせているときもそんなことがわかるのね」
「頭の芯が澄んでいくそんな恍惚感に、かえってまわりのものが鮮明になる」
「そう、私は自分がどこにいるのかも分からなくなるけど」
「男と女は違うのさ」
「それで、私の足の裏の味はどう」
「踏みつけられ、虐げられたものが、今をこの時と
悦びをさがす。そんな味」
「月並みなのね」
「ほんとうのことは、知ってしまえばありふれたものかもしれない」
「そう、
じゃあ、もう一度確かめてみるのはどう。
真実は、ひとつとは限らないかもしれないし」