肌あわせ
月乃助

うすあかりの光りがまだら模様をえがく夜
わたしは、私を忘れる




「風が出てきたみたいだ。梢の影が踊っている。
 ここには、街灯はないのだから…」

「月明かりね。風音が変わったのに気づかなかったわ」

「あんなに乱れていたら、気づきようもないだろ。
 森をふるわすような声で、鹿たちもびっくりしていた」

「鹿?うそばかり」

「いや、さっき木の実を食べにきていた」

「そんなことが分かるの」

「気配でね。庭の実はもう残りすくないけれども」

「あなたは、肌を合わせているときもそんなことがわかるのね」

「頭の芯が澄んでいくそんな恍惚感に、かえってまわりのものが鮮明になる」

「そう、私は自分がどこにいるのかも分からなくなるけど」

「男と女は違うのさ」

「それで、私の足の裏の味はどう」

「踏みつけられ、虐げられたものが、今をこの時と
 悦びをさがす。そんな味」

「月並みなのね」

「ほんとうのことは、知ってしまえばありふれたものかもしれない」

「そう、
 じゃあ、もう一度確かめてみるのはどう。
 真実は、ひとつとは限らないかもしれないし」







自由詩 肌あわせ Copyright 月乃助 2011-02-17 14:13:06
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