寓話
AquArium
疑問だらけの愛らしきものに
翻弄されて迷い込んだ森の
住人たちは迷惑そうな顔で
見てみぬふりをした
少年は泳げなかった
泳げると言い張って
海を目指してさらに奥へと
少女を引っ張っていった
もう森の入り口が分からない
誰も触れることのない
朿だらけの穴で呼吸した
空気は暖かい気がしたよ
凍えそうな冬のはじまりに
裸足で歩いていた少女を
そっと撫でてね、
一輪の薔薇をくれて
やがて少女は
あの日の澄んだ海を目指した
泳げると嘘をついた少年と
ひたすら汗を流した
本当は海なんてどうでもよかった
少年は気付かないで
いつも綺麗な薔薇を
摘んで夢を語った
朿だらけの身体でも
溶け合えば感覚は失ってゆくの
生ぬるい匂いと脈と血に
想いを累ねるだけ
夢中で
目指したものも
手に入れたいものも
本当は海でも薔薇でもなかった
確かなものが欲しくて
それは2人には見えなかった
恐らく少女は分からないふりを
恐らく少年は気づかないふりを
風が冷たいよ
森の住人は誰一人いなくなった