朝へ 傷へ
木立 悟






水にとける傷
とくとくと
しるしのように
書き換わる


何ものもなく何ものもなく
気付くと在った手のなかの音
微塵につづく
こがねの拍手


鳴りひびくのは
火の肺の息
砕いても砕いても 除けぬかたち
幸せにはひとつ 足りないかたち


陽と水のやりとり
わたし わたし 
わたされるもの
こぼれるものらのゆくところ


割れた指に重なる指
見えない球をとらえて消える
数多のゆらぎ 露わなる天
夜の鼓を はじく夜の手


眼からこぼれ落ちそうな眼が
宙を二十三文字に切り
細い細い裏通りには
色が色に遠去かりゆく


花は降り
花は降る
溝に枯れつもり
花は降り


傷が傷に触れては昇り
空は飛べないものに満ち
かすかなかすかな隙間から
やわらかな文字のぞき見る


夜が
夜の川をゆく
水紋は起ち
街をまたぐ


水に話しかけられ
夜は止まる
ふりかえる間に
水の名は増す


眼をつむり 立つひと
雨に似ている
星への坂を
ふたたび歩む


音や熱や息
音や熱や息
見えぬほど小さく刻まれて
夜から朝へのまぶたに撒かれる


退いてゆく
吹雪の似姿
冬は冬へ
つらなる影の裾をひく


うたうとき
手のひらをしるしに浸すとき
光あらう光のなかを
新たな傷は降りそそぎくる


























自由詩 朝へ 傷へ Copyright 木立 悟 2011-02-16 00:40:42
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