必要
相田 九龍
随分とのんびりした赤ちゃんが生まれた
優しい木漏れ日の中で たったひとりだった
声が誰の耳にも届かないのを知ったら
泣くのをやめて誰にも知られずに眠った
首のない人形は歩いた
喫茶店の前を通り過ぎて 街のはずれまで来た
赤ちゃんの泣き声がした
切なくて胸が震えた
旅人は陽だまりを見つけた
昼食をここで摂ることにした
背負っていた荷物を置き
大きく伸びをして寝転んだら
そのまま寝てしまった
一緒に泣いてしまいたかった
首のない人形は聞こえない声に揺さぶられた
足がガクガクと震えた
首がないせいだった
のんびりとした赤ちゃんは夢を見た
彼は旅をしていた
杖を持って 足が棒になりながらも
山を越えてどこかを目指していた
旅人が起きると夜だった
とても寒い夜で荷物から上着を取りだした
たくさんの星が木々の隙間から覗いた
旅人は死んでもいいと思った
人形は泣くのをこらえたまま
街に戻っていった
二度と街から出ないと誓って
街に戻っていった
旅人は冷たくなっていた
言葉がそこにないのなら
そこにすべてがあった
それを証明する手段はないが
少なくとも
誰も何も必要としなかった