クレマチス
蒼木りん

今年の遠い昔

貴方が好きだった

軽蔑するほどに愛だった

貴方の詠む歌に

傍らの人を見て

流れてゆかない舟が

私のこころにある

愛したとは

遂げられないものの錯覚

貴方は約束どおりに冷血

髪の色と同じ

変わり往くものばかり

私は

いま寂しいと言える

その言葉を恥と思わずに

握る手が

欲しくてたまらないと

空に喘ぎ地を這い蹲る

軽蔑するその声をもう一度

凍る耳朶に

甘噛みの愛撫で

私が見たいのは

その時の顔だけ

貴方の欲しいものは何


貴方の欲しいものは

私の嫉妬する顔

奮い立つような悦楽


約束どおり

秋の巴里の公園で

ふたりで死にましょう


それを

そっと抜け殻にして

それぞれに別れてゆきましょう





未詩・独白 クレマチス Copyright 蒼木りん 2004-11-02 00:35:23
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