古びたクローゼットを
覗き込むことは
できません
その代わりに
レコードで
ラブミーテンダーを聴きながら
君の過去を想っています
思い出は増やすものなのか
減らすものなのか
そんなことすら
わかりません
寒い風が吹いたとき
風の隙間が部屋になります
マフラーと手袋ぐらいは用意します
人間の体は弱いので
たくさんの
悲惨な絵画がありました
確かに記憶に残っているのです
でもそれをどこで見たのかわかりません
雨がそぼ降る
ギャラリーの
でこぼこの壁に
かけられていたのかもしれません
君は
クローゼットの中の服を着て
絵に囲まれて笑ってました
あんなに悲惨な絵の前で
笑っていられるのには理由がきっとあるのです
さびしい絵画は
壊されて
チューブの中の
絵の具に戻り
額縁だけが
立ち往生
そうか、
それがきっと
君の部屋の
古びたクローゼットに
あるのです
だから僕は
ふるえてしまい
クローゼットを覗けません