できごとは晴天なり
乾 加津也

晴天に

すごいね千人一人ひとりに黒の下敷きを持たせ、競技場の中央でできた人文字「country」を航空撮影で収める。それをcountry.jpegというファイル名の写真印刷にする。次はこれを富士山のモザイクアートのための、写真千枚のうちの一枚にする。浮世絵のように瑞々しい富士山.gifは特許庁に意匠登録されたあと、インターネット美術館で自由に閲覧できるものの、画像にはプロテクトがかけられており、だれも自由にダウンロードができない仕掛けがある。十六桁のPINを入れれば解除できる。

別の晴天に

富士山.gifを使った町興しグッズが出回っていると、とある掲示板がきっかけで当局が調査の腰をあげる。問題の町興しグッズを入手し顕微ソフトで同一性を解析する。特定部位の一枚がcountry.jpegであるか否か、なおcountry.jpegは黒の下敷きを手にした者たち、つまり晴天の千人で作られた人文字か否か。さらに、country.jpegを構成する右上角のひとりだけは、外国人(白人)であるという記録を頼りに解析を続ける。

ふたつは符合した
彼は白人であるから
これはcountry.jpegである
すなわち富士山.gifである
それは登録済であり
だから意匠権の侵害があると思われ
よってこの解析は起訴の根拠に耐える証左である

 そのあいだ
 空は色とりどりの雲らと遊び呆け
 外国人は国籍変更が認められて日本人になり




さらに別の晴天に

「サクラ、トテモキレイダカラ」と言いながら
富士山麓の
通りすがりに写真を撮ってもらう人がいた
「お国はどちらですか」と聞かれたら
「キョネン、ニホンジンニ、ナリマシタ」
と意地悪に笑うことにしている
彼は
十六桁のPINとは別の世界を生きている


自由詩 できごとは晴天なり Copyright 乾 加津也 2011-02-12 17:33:28
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