Corcovado
ホロウ・シカエルボク



なつかしい激しさをおもいだす二月
ねえ、ぼくら踊ろう、手に手をとって
行ってしまうものたちをかなしむよりも
「きちんと見送っているから」とほほえみを浮かべてあげよう
のどの渇きのことは隠しとおしてしまおう
ふるえるこころにはショールをまとってしまおう
それらしいこころづかいがあれば
だれもそれ以上気にしたりはしないものだから


きょうの午後空に浮かんでいた雲を見た?
花束を思いきり放りあげたみたいな雲だった
おかしな話だ、あんなにすてきな雲が浮かんでいた空のしたで
ぼくらは身をちぢめてこごえていたんだぜ


アストラッド・ジルベルトとスタン・ゲッツ
コーヒー・クリームをサンドしたビスケットとフレーバー・コーヒー
長針と短針のきょうの最終ハグで
たいていのことはみずに流してしまえる
ねえ、ぼくら踊ろう、手に手をとって
わるいねずみが駆けぬける天井をみながら
スネアをはたくブラシと一緒になって
グルーヴのなかへ忍んでいってしまおうよ
ゆるやかなビートは終わることはない
音楽が終わってもそれは鳴り続ける


パトカーがサイレンを響かせて真夜中のカウボーイになわを掛けるそばで
としごろの子どもたちがジャンクフードを食べちらかしてペッティングしてるそばで
みすぼらしい老人がしなびた陰茎で植えこみに小便をしてるそばで
ブルーカラーたちのいきどおるばかりの泥酔のそばで
つまさきで歩くみたいなボサ・ノヴァのリズムを
おおきな目のまばたきみたいなボサ・ノヴァのリズムを


きみはメイクをすっかり落として、かるい着物で肌をかくして
アルトの音符の踊りかたをすっかりわかって笑ってる
ハグをすませた時計の針はまたいつか来るそのときのため
ひとつもおくれずネクストに取りかかる
ステップの最後にぼくたちは抱きあって
あの空に浮かんでた雲たちのことをいとおしく思うのだ



自由詩 Corcovado Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-02-12 00:20:31
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