背中
nonya


しっかりと背筋の伸びた
背中を想い出す

負けず嫌いで前のめりな
背中を想い出す

スーツの ジャンパーの
似合わないポロシャツの
背中を想い出す

ブレない 振り向かない
先頭でないと気が済まない
背中を想い出す

大っ嫌いだった

情けない奴だと切り捨てた
調子に乗るなと立ち塞がった
自分で考えろと黙り込んだ
世間知らずとせせら笑った

そんな硬くて正しい
あなたの背中が
憎ったらしくて恐かった

ある朝

ふいに
あなたの背中は透き通った

透き通ったあなたの
背中の向こうには
荒んだ無人の大地が
地平線まで続いていた

誰かの手に押されて
僕は荒野に足を踏み入れた
覚束ない足取りで
僕は荒野を歩き始めた

とてつもなく不安になって
泣きながら喚き散らしても
僕の言葉は曇天に喰われるだけ

ほとほと疲れ果てて
後ろを振り返ろうとしても
誰かの手は黙って僕の背中を押すばかり

歩き続けるしかなかった

けれど

ある朝

ふいに
僕は分かってしまった

あなたの背中が
しきりに喋っていたことを
孤独に頭を突っ込んだまま
暑苦しく語りかけていたことを

痩せ我慢を貼り付けた
背中を想い出す

照れ隠しがはみ出した
背中を想い出す

どんな風にも揺るがない
背中を想い出す

未だに
僕の背中は
うまく喋ることができない




自由詩 背中 Copyright nonya 2011-02-11 19:11:34
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